自称アジャイルえばんじぇりすとのアジャイル奮闘記

大手システムインテグレータの自称アジャイルえばんじぇりすとが、日々のアジャイル推進活動の奮闘記を書きます。記事中の意見などは所属会社とは一切関係ありません。

#1 システムインテグレーターにアジャイル開発が合わない最大の理由

アジャイル開発の普及に携わる中で、システムインテグレーター(以下、SIer)にアジャイル開発は合わないという声を聞きます。そして僕自身も合わないと思っている張本人です。但し、それは"今のSIerの価値観やビジネスモデル"に合わないという意味です。世界的にアジャイル開発が主流になりつつある状況(既に欧米ではアジャイル開発のシェアがウォータフォール開発を上回っている)を考慮すると、合わないからとアジャイル開発を敬遠していては日本のSIerやその顧客企業の国際競争力低下を招くのは必至。

一刻も早く価値観やビジネスモデルをシフトし、アジャイル開発を受け入れていく事が必要です。

ブログ第1回目は、SIerアジャイル開発の普及に取り組むあじゃりもちの視点で、今のSIerアジャイル開発が合わない致命的な理由を書きます。

「作ること」にKPIが置かれるSIer

顧客がシステムを求める理由は何でしょう?
答えはもちろん、売上げアップやコスト削減など、ビジネスの視点でシステムに価値が見込めるからであり、アジャイル開発もビジネスの価値を高めることを最優先に考えられた方法論です。

作りかけで品質も悪いが沢山のユーザを集客できたシステムと、完成度は高いがユーザが付かないシステムなら、アジャイル開発の価値観では前者の方を「良いシステム」と判断します。

しかし、システム開発を受注するSIerにとってはどうでしょう!? 勿論、SIerも顧客のビジネス視点での価値について真剣に考えます。しかし、契約という関係がある以上、顧客の要件通りのシステムを期日通りに納品することが優先事項です。SIerにとって、それが出来なければ収入を得られないからです。。

なのでSIerのメンバは作ったシステムのビジネス価値ではなく、生産性や品質といった「作ること」に対するKPIを背負います。アジャイル開発やウォータフォールといったプロセスは関係ありません。

顧客がプロダクトの価値の目線で考えているのに対し、開発をする側は開発の目線で考えている訳ですから、プロジェクトとしてビジネス価値を最優先した開発が十分に出来る訳がありません。

SIerアジャイル開発が合わない最大の理由は、SIerが「作ること」にKPIを置いているのに対し、アジャイルはプロダクトの価値にKPIを置く事を前提とした手法である点です。

合わない具体例として、例えば、
プロダクトの価値が向上する見込みのある仕様変更や、価値を確認するための試作的な実装に対して、開発者(SIer)がネガティブな印象を持つ事が挙げられます。「作ること」にKPTがあるSIerにとって仕様変更や試作は手戻りによる生産コストの増加を連想させるからです。

また、プロダクトの仕様検討をSIer側がドライブさせるプロジェクトの場合、プロダクト価値よりも「作り易さ」が優先される可能性があります。
現に私の関わった事のあるパブリックなシステム開発のプロジェウトでは、不具合については非常にセンシティブに対処するのに対し、システム利用者数に対しては全く議論されませんし、むしろ少ない方が(不具合報告件数が下がって)有難いというムードでした。

このようなプロジェクトで価値の高いプロダクトを作る事は難しいでしょう。

この状況を解決するには

SIerのビジネスモデルを見直し顧客のビジネス価値にKPIを置けるようにする必要があります。例えば、成果報酬で顧客から費用を頂戴する。また、開発費の一部をSIerが負担する代わりにシステムから生じた収益の一部をもらうよう(共同ビジネス型)なモデルです。別の言い方をするとSIerもビジネスのリスクを取る必要があると思います。